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第 1 章 概要
1.1 FRAM とは?
FRAM とは強誘電体薄膜(Ferroelectric film)を利用したメモリです。強誘電体膜は , 外部から印加
した電界によって分極し , 外部電界を取り去っても分極が残る(この分極を残留分極とよびます)特
性があります。この特性を利用した FRAM は , 電源を切ってもデータが消えない性質(この性質を不
揮発性とよびます)が有ります。印加する電界の方向を変えることにより , 強誘電体の分極方向が変
わり , これによってデータを書き換えることができます。分極は , 強誘電体結晶を構成する原子の変
位によって起こる極めて速い現象です。よって , FRAM はデータの読み書きが非常に速い優れたメモ
リです。
1.2 FRAM の歴史
強誘電体の分極電荷で半導体の表面電荷を制御する実験に最初に成功したのは , スタンフォード大
学の Moll 氏と垂井氏です(1963 年発表)。1974 年には , S. Y. Wu 氏等がシリコン上の MOS (Metal
Oxide Si) トランジスタの絶縁物を強誘電体膜で構成したメモリを報告しました。1987 年には Krysalis
社が強誘電体の反転電流を検出する方式を発表しました。MOS トランジスタと強誘電体容量(強誘
電体キャパシタ)を重ねた構造になっています。同様な方式は 1988 年に Ramtron 社において , FRAM
としてはじめて製品化されました。FRAM テクノロジの進展に応じてメモリの容量とその構造も変化
してきました。富士通では , 1999 年から FRAM の量産を開始し , 2003 年 10 月現在 1 億チップ以上を
出荷しています。
1.3 FRAM と他のメモリの特長比較
半導体メモリには , 外部から電源を供給し続けないと記憶データが消えてしまう揮発性メモリと外
部電源を切っても記憶データを保持できる不揮発性メモリの 2 種類に大きく分けることができます。
揮発性メモリには DRAM (Dynamic Random Access Memory) や SRAM (Static Random Access Memory)
があります。DRAM は , 安価なメモリですが , データを保持するために常にデータの書換え(リフ
レッシュ)動作が必要です。そのため , 大容量を必要とするシステムに適しています。SRAM は , 高
速に読み書きができ , リフレッシュ動作が不要ですが , DRAM よりも大きな面積が必要です。このた
め , 比較的小 / 中容量向きで , MPU (Micro Processing Unit) やシステムに組み込まれて使用されていま
す。SRAM の中には , 電源が切れている時や不意の電源切断に対応するため , 後述の EEPROM
(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory) でデータをバックアップする NVRAM
(Non-volatile RAM
) や , 電池で電源をバックアップする BBSRAM (Battery Back-up SRAM) もあります。
不揮発性メモリには, 読出し専用のROM (Read Only Memory)と, データの書換えが随時可能なRAM
(Random Access Memory) があります。さらに , ROM はデータを書換え可能なものと不可能なものに
分類できます。書換え不可能な ROM の代表には MASK ROM があります。MASK ROM は , 一般にそ
の製造工程でデータが書き込まれて出荷されます。書込み可能なROMには, EEPROMやFlash Memory
があります。これらのメモリでは , ユーザがデータを書き込む場合が一般的です。一方 , 不揮発性の
RAM には , 前述の NVRAM や BBSRAM がありますが , これらは 2 種類のメモリの組合わせや , 電池
でバックアップするなど, 見かけ上の不揮発性メモリです。 FRAMは, これ自体でRAMとしてもROM
としても機能する理想的なメモリです。
FRAM と他メモリの特長比較について表 1.1 に示します。